「現象」 名古屋 巡回展

クロヌマタカトシの考える「現象」とは、秩序にみる詩情のようなものだろうか。
目の前の存在としてあるのは彼の彫刻作品だけだが、たしかにそこに境界を感じることができる。手前に「私」という存在があり、向こうに昨日の記憶がみえる。その記憶は、いつしか友人の音楽の情景へと変わっていく。今という秩序の中を生きる私と記憶の旅をする「私」。彼の作品を介して私は、彫刻と同じ境界に立つことができる。しかし、その境界を認識できると、その時間は終わってしまう。残念ながら同じ場所には辿りつけないが、また同じように境界に立とうとしてみる。過去の境界と今の境界に差分が生まれ、その差分から「私」の存在を感じ取ることができる。それが出来るのは、やはり彼の作品が強烈に美しいからであろう。その根源には哀しさがあり、今を生きることができる喜びがある。彼と握手を交わしたことがある人なら分かるが、彼の手は驚くほど柔らかい。その柔らかさが、哀しさを乗り越えて、観るものを美しい情景へと誘っている。彼が感じる「現象」は、これからも変化していくだろう。そして、私の中の「現象」は、どのように変化していくだろうか。そんな詩情のような時間も、本展の一つの意義であり、作家本人も望んでいることであるように思う。

クロヌマタカトシ「現象」 名古屋 巡回展

会期 2025年3月29日(土)30日(日)31日(月)
時間 12:00〜18:00
会場 十六画廊(〒460-0024 愛知県名古屋市中区正木1丁目13-14 愛知県製綿センター2階)

https://g16.jp/

問い合わせ:mail / contact@g16.jp

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